エッセイ
21世紀の民藝とは? ①
宇宙の話
最初は、宇宙の話です。
この地球が、太陽のまわりを一年かけてぐるりと廻っていることはだれでも知っています。では、それはどのくらいの速度で移動しているんでしょうか? 地球の公転軌道は、9億3981万キロです。それを365日で割れば、1日に260万キロの早さ。24時間で割れば、時速はおおよそ10万キロ。ものすごいスピードですね。秒速にすると30キロですが、これでもよくわかりません。しかも地球は公転しながら自転しています。では、その自転速度はどうなんでしょう? 赤道は一周4万キロですから、これを1日で回るので、時速1666キロ。秒速500メートル。とにかく、いまこの瞬間もぼくたちは、地球の上に乗っかって、ものすごいスピードでクルクルクルッと回りながら、宇宙空間をとてつもない速度でブッ飛んでるわけです。それでいて、振り落とされたり、気持ちが悪くなったりしないどころか、誰もほとんどそのことに気がついてさえいないようです。ぼくは、子どものときに何かの本で、この事実を知って、自分の小ささにあきれはて、身のまわりで抱えていた悩みなんてどうでもいいことのように思え、とても楽に生きることができるようになりました。
そして、最近知ったことです。太陽を中心にいくつかの惑星がそのまわりを平面的に回っている図を、だれでも思い浮かべることができます。でもそれは理解しやすくするための簡略化された画像なんです。実際は、太陽そのものが、銀河系の中で彗星のように宇宙空間を移動しています。その速度たるや時速79万キロ! 秒速220キロです。その太陽に付き従って、惑星は公転していますから、この地球も太陽と同じ速度で、同じ方向に、公転しながら移動している。ということはその軌道は、螺旋ループを描いているということになります。もうなんだかよくわからないですが、目を閉じてその状態を想像してみてください。じつは、いまもこの刹那、ぼくたちはものすごいことを、いままさに経験しているわけです。
(2につづく)
塗師。1962年岡山県生れ。中央大学文学部哲学科卒業。編集者を経て、1988年に輪島へ。輪島塗の下地職人・岡本進のもとで修業、1994年独立。以後、輪島でうつわを作り、各地で個展を開く。著書に『二十一世紀 民藝』(美術出版社)、『美しいもの』『美しいこと』『名前のない道』(新潮社)などがある。