ものづくりの
現場

ろくろ職人に憧れて ①

文・岡本 純一

8月の猛暑日、懐かしさ漂う温泉地、別府から車で小一時間、大分県宇佐市に工房を構える松原竜馬さん、角田淳さんを訪ねました。
お二人は、器作りを生業に、家族4人で町外れの山の中で暮らしています。

 

松原さんは大分、角田さんは熊本の出身。子供たちも九州で育って欲しいという思いから5年前愛知県常滑市から引っ越してきました。

 

緑に囲まれたご自宅から工房までは歩いて1分ほど、途中にモダンなお茶室もあり羨ましくなる空間が広がります。

 

工房の周りにはリンドウの芽がたくさん生い茂り季節になると可憐な花が咲き乱れるのだと、はつらつと教えてくれたのは、角田淳さん。リンドウのように、か細い印象の淳さんですが、お話好きで2人の息子を持つパワフルなお母さんでもあります。
まだ新しい平屋のシンプルな工房は、三部屋に区切られ真ん中に陶芸用ガス窯が二台置かれています。昨晩は松原竜馬さんの窯焚きがあったようで、その熱気が工房に残っていました。竜馬さんは、奥さまとは反対に物静かな印象。まだ若い頃、土に触れる前から、自分は陶芸を生業に生きていくと決めていたという。そんなお話を聞いて、静かな中に熱っぽい心意気を感じました。
竜馬さんは、スリップウェアというイギリスの民窯*(みんよう)発端の装飾技法を中心に、安心感のある普段使いの器を作られています。
淳さんは、真っ白な磁器土を使います。器の他にも花器や照明器具など幅広く生活の道具を作られています。
お二人の作られる道具は、おおらかで、現代作家に多く見られる自己表現としてのものづくりや作為というものを感じることがありません。
そんな道具たちは、食卓で自己主張することなく食材やお料理に活気を与えてくれます。また普段忘れがちな「食材を戴く」という、畏敬の念を思い出させてもくれます。
これから、お二人の工房でお伺いしたお話や、ものづくりの現場について、ご紹介できればと思いますので、楽しくご拝読いただければ幸いです。

 

ミンゲイサイコウは、いくつかのエッセイを通して「民藝とは何か」を少しづつ紐解いていく、そんなサイトを目指します。
 

*民窯(みんよう)とは、甕や壺、碗など民衆のための生活雑器を焼く窯元。実用的で素朴な器たち。

岡本 純一
岡本 純一(オカモト ジュンイチ)

陶器作家、Awabi ware代表。1979年兵庫県淡路島生れ。武蔵野美術大学大学院彫刻コース修了。同大学助手、非常勤講師を経て、2010年に地元淡路島にUターンし、「民藝は可能か?」をテーマに器の制作を始める。2016年、株式会社あわびウェア設立。2018年民藝入門書を目指した「ミンゲイサイコウ」を立ち上げる。

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