ものづくりの
現場

ろくろ職人に憧れて ②

文・岡本 純一
左上、右上:輪花皿二種、
(写真左)江戸期の御深井焼(おふけやき、現愛知県瀬戸市の焼き物)、
(写真右)角田淳さんの豆皿
左下:松原竜馬さんのスリップウェア生地

大分県宇佐市に工房を構える松原竜馬さん、角田淳さんを訪ねています。

お二人のつくる器は、使いやすく、食材に活気を与えてくれます。また、おおらかで気持ちのいい道具たちです。

なぜ、そんな雰囲気を持つ道具を作ることができるのでしょうか。

とても疑問です。

伺った話の中に、そんな疑問を解決してくれるヒントがあるかもしれません。

 

お二人は共に、長崎県にある波佐見窯業学校(ハサミヨウギョウガッコウ)で焼き物の勉強をしました。400年以上続く波佐見焼は、有田焼の華やかな焼き物とは対照的に、庶民のための丈夫な器づくりを得意とした産地です。そんな歴史のある窯業地で、お二人は今でも師匠と仰ぐ、ろくろ職人と出会ったと言います。

「師匠たちの仕事姿が忘れられないんです。」

師匠たちとは、故・田沢大助さんと、故・中村平三さんという、今は亡きろくろの名人でした。

二人の師匠は「(ろくろ)賃挽き職人」といってろくろ成形を生業にした陶工でした。今は産地でもほとんど見かけることが無くなった職人です。それは、窯業が機械化、工業化される過程で失われていく手仕事の一つでした。

「師匠たちのろくろ姿は、本当にかっこよかったよね!」

と、二人は憧れを込めて言います。

賃挽きの職人は、1日に作ることができる生地(キジ)*の数によって、その日の稼ぎが決まります。そのため数をこなせないと、食べていくことができない厳しい世界です。当然、動きに無駄は無くなり、理にかなった身のこなしになっていきます。

「その姿は、流れるようで、美しい、、、、」

と、師匠たちのろくろを挽く姿を、懐かしむように回想してくれました。

現代の陶工として、活躍するお二人の脳裏には、今は亡き職人の姿が、くっきりと刻まれています。そんな記憶が、二人の器におおらかなオーラを付与しているのだと気付かされました。

 

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ろくろ職人に憧れて②終わり

最終回③に続く

 

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生地(キジ)*とは、形作られた焼成前の器のことを言います。素焼もされておらず、粘土が乾燥した状態のため脆いです。水分を含むと崩れ、再び粘土に戻ります。

左上、右上:輪花皿二種、
(写真左)江戸期の御深井焼(おふけやき、現愛知県瀬戸市の焼き物)、
(写真右)角田淳さんの豆皿
左下:松原竜馬さんのスリップウェア生地
岡本 純一
岡本 純一(オカモト ジュンイチ)

陶器作家、Awabi ware代表。1979年兵庫県淡路島生れ。武蔵野美術大学大学院彫刻コース修了。同大学助手、非常勤講師を経て、2010年に地元淡路島にUターンし、「民藝は可能か?」をテーマに器の制作を始める。2016年、株式会社あわびウェア設立。2018年民藝入門書を目指した「ミンゲイサイコウ」を立ち上げる。