ものづくりの
現場

あわびウェアと民藝①

文・岡本 純一

民藝との出会い「異形の菩薩」

これは、僕が二十歳の頃のお話。
ヤマンバギャルが渋谷を闊歩し、就職氷河期真っ只中。マトリックスやスターウォーズエピソード1が公開され、世の中は、非現実世界に安住を求めはじめた不安定な空気の中、2000年ミレニアムを迎えていた。

その時僕は、美大の彫刻学科に学び、青春を謳歌していた。将来のことなど、ひとっかけらも考えることなく、真面目に大学で遊び呆けていた。
彫刻と美術教育を学びつつ、あらゆる素材に触れ、彫刻作品というには憚られる様な、なんとも役に立たない自分本位な立体物を作る日々。彫ったり切ったり、はっつけたり、手や体を動かす作業や巨大な作品づくりは楽しくはあるものの、のめり込むことなく生半可な気持ちで作品づくりと付き合っていたように思う。
ふわふわ、という言葉がしっくりくる。そんな学生生活だった。

これといったとっかかりもなく過ごしていたある日、木工を学ぶ友人の工房を理由もなく訪ねた。
そこは工芸工業デザイン学科という、プロダクトデザインとクラフトを学ぶ専門学科で、その友人は木工と漆のコースを専攻していた。
少し小柄な友人は、防塵マスクをつけ、手拭いを頭に巻き、金髪パーマをチラつかせていた。
そして手にはグラインダー。おそらく椅子であろう物体を全身粉まみれになりながら果敢に削っている。
一通り削り終わり、その椅子であろう物体の全体像が露わになった時、気のせいかもしれないと思うくらい一瞬、未完の椅子から後光が差したような感覚があり、不思議な体験を覚えた。

僕は目をパチクリさせた。
緩やかな曲線と半円の面で構成された形態。
座面と背もたれが抜け落ちカルダーの抽象彫刻のような、形態というより形骸という方がふさわしいように思う。なんだか懐かしくもあるような、温かさもあるようなそんな雰囲気も醸し出されていて、まだ作業途中というのに愛嬌のある形が心に残っている。
まさに、作り手の友人をそのまま椅子にしたような、荒削りだけど愛嬌と度胸は人一倍といった調子だ。

その物体を、表象すると、
「異形の菩薩。」
そんな言葉が似合う。

僕は、友人に、その物体から滲み出る愛嬌の正体を尋ねた。

その答えは、
「ミンゲイ。」だった。
それは、今まで知っていた、いわゆる「民芸品」のミンゲイとは少し違う、
僕にとって、新しい「民藝」との出会いだった。
このようにして、僕と民藝の付き合いが始まったのだ。

(次項「優しいオーラ」につづく)

岡本 純一
岡本 純一(オカモト ジュンイチ)

陶器作家、Awabi ware代表。1979年兵庫県淡路島生れ。武蔵野美術大学大学院彫刻コース修了。同大学助手、非常勤講師を経て、2010年に地元淡路島にUターンし、「民藝は可能か?」をテーマに器の制作を始める。2016年、株式会社あわびウェア設立。2018年民藝入門書を目指した「ミンゲイサイコウ」を立ち上げる。